脊椎動物の上陸
-内骨格(背骨)を選択したもの-

 

 脊椎動物が無脊椎動物より5000万年も遅れて上陸した理由は,背骨上陸とは全く無関係の発想でつくられたことによる。つまり,最初に進化した海 水魚には背骨がなかった。背骨は淡水魚の進化と密接に関連しており,河川という新天地に挑戦した魚が水中用に開発した。その後,淡水魚の背骨を内骨格としてボディー全体のしくみを陸上用につくりかえ たため,回り道せざるを得なかったのである。上陸までの進化の流れを化石からたどってみると,下図のようになる(予想図)。

 

アランダスピス(海水魚)・・・オルドビス紀
 ・頭部骨板をもつ
 ・体長約15cm

プテラスピス(汽水魚)・・・デボン紀
 ・頭部外骨格をもつ

ケイロレピス(淡水魚)・・・デボン紀
 ・
背骨をもつ
 ・体液循環系が発達
 ・体長約55cm

ユーステノプテロン(淡水魚)・・・デボン紀
 ・ヒレに指の骨が発達
 ・肺呼吸を一部開始?
 ・体長約120cm

イクチオステガ(両生類)・・・デボン紀末
 ・肋骨が発達
 ・四足歩行で
上陸
 ・体長約100cm

は中類の出現・・・石炭紀
 ・陸上生活
 ・
大型化する

 

<魚が上陸できたわけ

<1>背骨とは?
  海水魚にとって,河川への挑戦は死を意味する。淡水域では,まず,浸透圧が低いために細胞が破裂する。その上,生体に必須なミネラル(PやCaなど)が非常に少なく,生命を維持できない。その解決策の一つは,排水のための腎臓を発達させ,体液の循環系を通じて浸透圧の調節を可能にした。そして循環系にO運搬専用の赤血球を導入した。もう一つは,リン酸カルシウムを主成分とする背骨を造ることによってミネラルの貯蔵と供給を可能にした。背骨とはいわば「母なる海」の代わりなのである。淡水適応のシステムは,魚を海から自立させるとともに,あらゆる脊椎動物の基本システムとなった。 また,背骨を支柱として筋肉もより発達した。背骨をもった魚は,その一部が海にもどり水中の王者となるが,それ以外はさらに川の上流を目指した。
PはDNAやATPの成分であり,Caイオンは筋収縮に欠かせない。

<2>三つの難問
  
①ヒレから足をつくる
  ②重力に耐える内骨格をつくる
  ③エラ呼吸に代わる肺呼吸が必要
 
いずれも水中を泳ぐ魚にとって無縁のものであり,発想のチャンスがないように思われる。ところが,自然の変化に富んだ川という環境がこの難問を一つずつ解決に導くのである。川は,海と異なり,流れる地形と気候の変化によって上流域から下流域まで千変万化の様相を呈する。湖,沼,池,湿原の形成も川のなせる技である。これらの水域に魚は進出し,生き抜くための様々な工夫をこらすのである。
 魚には,普通,腹側に胸ビレと腹ビレが1対づつある。大型の魚にとって,水深の浅い 岸辺や流れの速い浅瀬で餌を探すには,泳ぐためのヒレよりも川底に固定できる足の方が便利であり,
4本足が進化したのであろう。浮力のある水中で陸上用の丈夫な骨格ができたのも,急流で石がゴロゴロした浅瀬が訓練の場になった可能性があ る。また浅瀬では,扁平なボディーが有利であり,内臓を守るための肋骨も必要になったと思われる。最後の肺呼吸は,水中が腐敗物によって酸欠状態になった際,窒息死から逃れるための救急用としてうきぶくろを転用したのが始まりであろう。今でも肺呼吸をする肺魚などの魚が数多くいる。

<3>川に脱帽!
 
魚は,川が持つ何重もの困難な境界を一つずつ突破することによって上陸に成功した。それは,背骨をもつ私たちヒトへの貴重な第一歩でもあった。上陸後に進化する脊椎動物(爬虫類,哺乳類,鳥類)を考えると,川がすべての大型動物を育んだといっても過言ではあるまい。