細胞融合するバクテリア

 

  20年ぐらい前から,原核生物に古細菌(アーキバクテリア)という全く新しい種類のバクテリアがいることがわかってきた。古細菌は,火山や温泉などの厳しい環境に棲むものが多く,高温,強酸,高塩,猛毒ガス(メタンなど)の中でも平気で生きている。主なグループに好熱性菌,高度好塩菌,メタン生成菌などがある。今では細々と生きながらえているが,かっての地球状況を考えると,古細菌の祖先はかなりの勢力を持つバクテリアであったに違いない。古細菌の多くは軟らかい限界膜を持つ特徴がある。そして好熱性菌では,周囲の環境が悪化すると,アメーバのように仮足を延ばして仲間の細菌同士が次々と融合していく(下図)。他の真正細菌がペプチドグリカンの硬い殻で身を包むことを選んだのに対して,古細菌は軟らかい膜を持ち続け,細胞融合によって細胞の大型化と遺伝子DNAの増幅ができる道を残している。また,遺伝子発現系の分析結果では,真正細菌になくて,古細菌だけにある真核細胞との類似点がいくつか指摘されている。従って,大型化した古細菌の祖先が最初のホスト(宿主細胞)として真核細胞体のもとになったことはほぼ間違いない。


好熱性古細菌(サーモプラズム)の細胞融合

 原核生物(単細胞生物)は通常,細胞分裂によって個体を増殖させ,「生」を更新している。それに対して,古細菌のように,細胞融合によって個体数を減らして「生」を更新する方法はまさに逆転の発想である。この発想は真核生物でも非常に重要で,受精という細胞融合によってはじめて「生」がスタートする。