酸素呼吸のバクテリア?

 

 シアノバクテリアが海洋の浅瀬に大繁殖して原核生物の覇者となった時代,海中に放出された大量のOは,これまでの嫌気性バクテリア にとって生存を脅かす有毒ガスであった。しかし,Oの壁に挑戦し,Oを利用してエネルギー(ATP)を産生するしくみ(酸素呼吸)を発見したバクテリアがいた。好気性もしくは通性嫌気性のバクテリアの出現である。そして,これらのバクテリアの中から,真核細胞に共通な細胞小器官であるミトコンドリア(下図)が進化したと考えられている。すなわち,ミトコンドリアの祖先が大型の嫌気性バクテリア(古細菌)と共存関係を結んだとする共生説である。
 最近の遺伝子を中心とする分子進化の研究では,ミトコンドリアのDNA,RNAポリメラーゼ,リボソーム,rRNAなどが真正細菌特有であり,さらにrRNA遺伝子の塩基配列による系統樹から,ミトコンドリアがグラム陰性桿菌のα−プロテオバクテリアに属することも明らかになった。


ミトコンドリアの断面図

 酸素呼吸(好気呼吸)で発生するエネルギー(ATP)量は,無酸素呼吸(嫌気呼吸)だけの場合と比べて,18倍近い値になる(下図参照)。数分間息を止めて酸素が供給されないと死ぬことから,ミトコンドリアでのエネルギー産生がいかに重要であるかがわかる。つまり,ミトコンドリアの祖先は,次に起こる真核細胞の誕生に不可欠なバクテリアだったのである。