真核細胞誕生のシナリオ
ーバクテリアの細胞内共生ー

 原核生物には様々な生き方を工夫したものがいたと思われ,それらの間で熾烈な生存競争が繰り広げられていたであろう。
  古細菌の祖先(嫌気性)は,強力なパワーを持つミトコンドリアの祖先(好気性)のたび重なる攻撃から身を守るために,まず融合して大型化した。次に,集められた遺伝子の万全を期すため,さらに核膜という二重膜で封印して対抗した。そのうち,侵入者のミトコンドリアを細胞質に取り込んだまま利用するものが現れた。これが動物細胞の起源である。私たちヒトも古細菌の遺伝情報をもとに進化したことになる。
 ミトコンドリアを取り込んだ大型細胞の中から,生産者であるシアノバクテリアの祖先をも細胞質に取り込むものが現れた。これが植物細胞の起源である。
@古細菌の祖先Aミトコンドリアの祖先 → 動物細胞誕生
上の @ A シアノバクテリアの祖先 → 植物細胞誕生
 このシナリオでは,3種類のバクテリア間のサバイバルゲームに一つの終止符を打った,共生という姿が,真核細胞になったと言える( 細胞進化の図参照)。真核細胞が2ないし3種類の原核生物の同居だとすると,それらの境界領域を保つのは至難の業である。おそらく,親細胞となる古細菌の祖先が他の2者の時空をコントロールできるだけの遺伝情報をもったのであろう。
 真核生物とは,“相手を倒すことだけが勝利者ではない”という新しい設計構想をもった生物であり,この後,原核生物とは全く異なる時空(多細胞化)へ旅立つことになる。
 最近,北米ミシガン州の約20億年前の鉄鉱層から,グリパニアと呼ばれる化石が発見された。 この生物は幅1mm,長さ数cmもあり,最古の真核生物とされる。 グリパニアの仲間は8億年前ぐらいまで認められる。

グリパニアの化石(左:20億年前,右:10億年前)