有 性 生 殖

 性が高度に分化し,無性生殖を放棄した多くの動物種では,♀・♂の生

殖細胞(卵と精子)に生命の連続が託されている。生殖細胞による性のし

くみはたった一個の受精卵に次の世代を担う新個体をまかせるわけで,ま

さに命の綱渡りである(下図)。                  

<二倍体(2n)生物の有性生殖>

   卵(n)+精子(n)=受精卵(2n)────→ 新個体(2n)
               発生と分化         
└──────└─────────────────┘      
減数分裂

*nはゲノムと呼ばれ,ヒトの場合相同染色体の一組(23本)のDNA量をいう。

このような危険を冒してまで有性生殖にこだわるのは,他にメリットがあ

るからである。                          

ー 減数分裂で出来る卵と精子にはゲノムに莫大な種類がある ー

 ヒトの場合,卵や精子を造る生殖母細胞(卵母細胞と精母細胞)は体細

胞と同じく,それぞれ46本の染色体をもっており,その中にかたちと大

きさの同じ染色体(相同染色体)が2本ずつ23対ある。卵や精子ができ

る時,これら23対の片方の組(相同染色体の一組=ゲノム)をもつよう

に半減する分裂が減数分裂である。この分裂法は非常にうまくできていて

23対の相同染色体が二組に分かれるとき各対の染色体は独立に全く偶然

の組み合わせで半減するしくみになっている。従ってゲノムの種類は理論

上223(約800万)あることになり,卵のゲノムと精子のゲノムが組み

合わさってできる受精卵の種類は約64兆(800万X800万)にもな

る。しかもこの種類は最小限の数であり,実際には各相同染色体の間で交

叉(こうさ)による遺伝子の乗り換えが起こり,卵と精子におけるゲノム

の種類はもっともっと多くなる。その結果,できてくる受精卵の種類はほ

とんど無限に近い。この遺伝子組み換えの多様化こそ,性のしくみの本質

であろう。すなわち,性とは様々に進化した生物種の中に個性というもう

一つの多様性を生みだすしくみと言える。