植 物 の 例

 家畜と同様,作物の場合も受粉によって種子を作ればその子は雑種にな

る。切り花の栽培一つとっても,種子で殖やすと花の色が混ざってしまう

欠点がある。多くの野菜と果物についても同じことが言える。品質を管理

して商品価値を高めるためにも,優良品種を純系に保つ必要がある。その

方法としては,これまで株分け,挿し木,接ぎ木などが用いられてきた。

しかしこれらの方法では量産に時間がかかり,適用できない作物も多い。

そこに登場したのが細胞培養によるクローン化である。植物の体細胞は,

根・茎・葉などに分化していても,取り出して培養しながらホルモン処理

すると脱分化して未分化な細胞に戻れるのである。カルスと呼ばれる細胞

塊がそれに相当し,それをもとに意外に簡単に胚ができて一個体を形成す

る。この点が動物の体細胞の培養と全く異なる。すなわち,植物のクロー

ン化に卵細胞は必要ない。おそらく植物では,体細胞の分化が動物ほど厳

密になされていないと考えられる。細胞培養の実用例として,日本人が好

む第三位の切り花であるカーネーションのクローン化を挙げてみる。 

第一位がキク,第二位がバラである。                 
 

<成長点培養によるカーネーションの作出>

a 芽の中にある成長点の細胞を取り出す。成長点の細胞は分裂能力が高
  く,ウイルスにほとんど汚染されていない。           
b 培養で細胞をどんどん分裂させ,増殖した分を次から次へと別の培養
  器に移していく。                       
c 目的とする数のカルスが得られた時点で,発芽・発根に必要なホルモ
  ン処理をする。                        
d 出来た小さな苗を土に移す。カーネーションの成長点培養では1本の
  親株から年間14万本のクローンが作れるという。自然の状態で親株
  から子株をいくら殖やしても,年間15本が限度である。