細 胞 膜
細胞は厚さ約7〜10nmの薄い膜によって外界と仕切られている。この膜を 細胞膜(plasma membrane)といい,原形質膜,形質膜とも呼ばれる。細 胞膜は,まず細胞内に独立した環境を作る役割を果たす。しかし,この膜は単 に境界を定めるだけでなく,細胞内外におけるホメオスタシスを保ちながら,積 極的に外界と物質交換,情報交換するしくみをもっている。また,細胞膜は活 発に伸縮して変化することもでき,白血球などのアメーバ運動にも対応できる。 |
〔構 造〕
1.基本構造 @ 基本となる構成成分はリン脂質で,親水性の領域と疎水性の領域をもっ ている(下図a)。 A リン脂質は脂質二重層を形成しており,親水性領域(極性基:水を好む) を外側に,疎水性領域(非極性基:油を好む)を内側に向けて並んでいる (下図b)。 B 脂質二重層には,各種の構成タンパク質がその親和性に従ってリン脂質 と結合し,挟み込まれている(下図c)。 C 以上の他に,細胞特有の機能に関与する糖タンパク質,糖脂質などが付 加されている(下図c)。 |
a:リン脂質の構造 b:脂質二重層
c:細胞膜の流動モザイクモデル
2.特殊化構造(細胞間結合参照) @ 細胞間接着:細胞膜の一部が特殊化して,デスモゾーム(接着斑),密 着結合(閉鎖結合),接着帯,ギャップ結合(ネクサス)で接着している。 A 細胞・マトリックス間接着:細胞の外側には細胞外マトリックスと呼ばれ る複雑な網目構造が存在する。細胞は,細胞膜の受容体を介して細胞外 マトリックスと接着している。細胞外マトリックスとの接着は発生における 形態形成の要因として重要視されている。 〔機 能〕 1.細胞内外の物質透過 @ 水,酸素,二酸化炭素は細胞膜を自由に透過できる。これらの物質は 細胞内外の濃度勾配に従って,濃度の高い方から低い方へ平衡に達す るまで移動する。このような物質移動は拡散と呼ばれ,エネルギーを必 要としない。 A イオン,糖,アミノ酸は細胞膜を自由に透過できない。そのため細胞膜 には,これらの物質を選択的に取り入れるタンパク質,排出するタンパク 質が存在する。例えば,細胞内のナトリウムイオンを排出するイオンポ ンプ(膜タンパク質)や,腸管のグルコースを細胞内に取り入れる膜タン パク質など。このような濃度勾配に逆らった物質移動は能動輸送と呼ば れ,エネルギーを必要とする(下図a)。 B 巨大分子や粒子の取り込みと排出では細胞膜は大きく形態変化する。 取り込みにおける一連の過程はエンドサイトーシスといい,ピノサイトーシ シスとファゴサイトーシスとに区別される。逆に,排出の過程はエキソサ イトーシスという。タンパク質や細菌などの取り込み,ある種のホルモン (インスリン)や抗体などの放出に関与しており,ともにエネルギーを必 要とする(下図b)。 |
a:赤血球のナトリウムポンプ b:巨大分子や粒子の輸送例
2.細胞間の情報交換 @ 細胞膜表面には,増殖因子やホルモンなどの情報伝達物質を特異的 に受け取るための(糖)タンパク質が存在する。これを受容体と呼び,受 け取った情報は別の物質に変換されて細胞内に伝えられる。 A 細胞間の接着では,膜表面に存在するタンパク質の複合体によって, 接着する細胞の選択を行う。また,接着装置を介して情報物質が直接行 き交う場合もある。 |