〔C〕誘導物質の追究
 形成体の機能をもつ誘導物質が何であるかはこれまでなかなかわからなかった。1980年代に入って,発生初期の未分化な細胞に働いて,筋肉,脊索,消化管などを誘導する因子がいくつか 解明された。その中の一つにアクチビンという物質があり,東大の浅島先生によって発見された。
 
<アクチビンの作用>
上図:アフリカツメガエルの胞胚期の動物極細胞(アニマルキャップ)を培養器に入れ,アクチビンの濃度を変えて処理すると,様々な組織・器官が誘導される。
 
誘導物質の研究は ,ヒトのES細胞胚性幹細胞) に対しても進められており,近い将来,移植臓器が培養によって作られるようになるかもしれない。

 

〔参考〕ゲノムからみた発生過程
 有性生殖の動物では,受精卵という1個の細胞からスタートしてたくさんの細胞から成る個体に仕上げなければならない。発生とは,1個の細胞(受精卵)細胞分裂を介してうまく操っている現象であり,この過程で,各細胞がもつ能力が次第に変化し,最終的に特定の組織・器官細胞になる。従って,受精卵がもつDNAには1個体を形成するために必要なすべての遺伝情報(ゲノム)が含まれている。ヒトの場合,約60兆の細胞から成るクローンであり,受精卵のゲノムが発生段階に応じて各胚細胞内で精確に発現調節されている(下図参照)。

<細胞分裂と細胞分化>

上図:
受精卵からスタートし,細胞が分裂の進行(時間経過)にともなって全能性から多能性を経て単能性になる変化を分化という。分化は一般的に不可逆的な変化であり,胚細胞の遺伝情報が段階的に限定されて発現する結果起こると考えられている (別紙参照)。 

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