性の分化と性の決定

 すでに述べたように,ほとんどの動物はが関与する有性生殖である。 ではとは何か? ヒトを含む哺乳類 では一般的に雄と雌の違い個体の性)を指し,雄の精子と雌の卵子細胞の性)が受精して 初めて子孫を残す。当然のことのように思われるが,このような安定した性のしくみは生物界ではむしろ特殊な例である。ここでは性の分化と性の決定についてもう少し詳しく述べてみる。

 

<性の分化>
 
両生花をもつ被子植物では確かに花にめしべ(雌)とおしべ(雄)の性差がある。しかし花をつくる個体自身に性の区別がなく,雌雄同株と呼ばれる。動物でも,カタツムリ(軟体動物)やミミズ(環形動物)などは雌雄同体と呼ばれ,1個体に卵巣と精巣が同居している。また,雌雄の個体差をもつ動物でも,ミツバチやアリマキ(節足動物),ギンブナ(魚類)は単為生殖で子孫を残し,雄を必要としない場合がある(別紙参照)。さらにベラ類の魚 (ホンソメワケベラなど)は性差が不安定で,1番大きな雄が死ぬと2番目に大きな雌が雄に性転換して繁殖を続ける。
 以上からわかるように,性の分化は生物の種類によって様々であり,子孫繁栄に柔軟に対応しているものが多い。ただし動物全体としては,進化の歴史が進むほど雌雄の区別が明確かつ安定になる傾向を示す(下図)。哺乳類では性の分化が進んだ結果,繁殖に雌と雄の両方が不可欠となり,お互い相手を探すのに苦労する動物になった。 私は結婚後35年になるが,いまだに自問自答している。

動物の進化と性の分化

哺乳類の性分化は強固で,遺伝子操作によらないと単為生殖は不可能(東京農大,河野先生より)

 

<性の決定>
 
雌雄異体の動物で,個体の性を決定する要因が基本的にわかっている動物種はまだ限られる。しかもその 決定要因によって,個体の雌化や雄化,生殖巣の卵巣化や精巣化がどのようなメカニズムで分化・発生するかはよくわかっていないのが現状である。

【環境要因で性決定される例】
 環形動物のボネリア(ボネリムシ)は,プランクトン生活する幼生がそのまま海底に固着すると大型の雌になり,この雌に別の幼生が付着した場合,小型の雄になる。付着できない幼生はまた海底に固着して雌になる。

左図:大きな吻をもつ ボネリアの雌。付着している雄は小さくて肉眼では見えない。
 
 爬虫類には発生時期の周囲の温度で性が決定されるものがいる。ミシシッピーワニは34℃以上ですべて雄になり,逆にアカウミガメは32℃以上ですべて雌になる。またカミツキガメは28〜30℃で雄になり,それ以外 の温度では雌になる(下図)。

【性染色体で性決定される例】
 
性に関与する特別な染色体(性染色体)があり,受精時に,性染色体の種類や数の組合せで雌雄が決まる。この性決定方式は,減数分裂時に性染色体が分離してできる卵や精子の違いから説明できるので理解しやすい(下図)。 この方式には動物の種類によって雄ヘテロ型雌ヘテロ型があり,現在哺乳類を中心として,性染色体に含まれる性決定遺伝子の解析が進んでいる。哺乳類の研究成果では,Y染色体上の特定の遺伝子部SRYと呼ばれる)が精巣の分化を引き起こすことによって雄化が決定されると考えられている。つまり,性の遺伝的設計は本来雌型になっていて,雄型がSRYによって新たにつくられるわけである。

 
:常染色体の相同染色体の1組(本数)  X,Y,Z,W:性染色体の種類

上図から,ヒトの性決定方式は雄ヘテロのXY型であり,以下のように性決定される。


 従って,男女の産み分けは精子によって決まることになる。現在では,Xを含む精子と,Yを含む精子を前もって分離することによって,伴性遺伝病X染色体上の劣性遺伝子によって引き起こされる筋ジストロフィーや血友病など)の子を産まないようにすることもある程度可能になっている。 例えば,女性が血友病の保因者でも,正常な男性と結婚して,X精子を使って女児を出産すればすべて正常な子になる(但し,50%は保因者)。つまり,男児を出産すれば50%の確率で血友病の子になるのを避けることができる。          

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